1. HOME
  2. ブログ
  3. ”肩を下げている”意識が、実は自分の脊椎全体を短くしてしまうという現象

”肩を下げている”意識が、実は自分の脊椎全体を短くしてしまうという現象

「力を抜いてください」と言われたら、あなたは何をしますか? 実際、身体をリラックスさせるために自分が何をしているか、考えたことはあるでしょうか。

私が最近気づいたことは、自分が力を抜こうと思ったとき、腕を後ろに引きながら下げていたということです。これはリラックスするために「肩を下げよう」という意識が起こしたものでした。

「肩の力を抜く」とよく言いますが、実は解剖学的に「肩」という部位は存在しません。私たちが「肩」と認識しているものは、正確には肩甲骨と鎖骨です。これは、紛れもなく「腕」なのです。

腕は身体の前側に来ると、本来の位置に収まり、それ以上下げることはできません。肩関節はやや前に向いていて、腕をそこでぶら下げておけば、鎖骨や肩甲骨も含めて腕を最大限長く使うことができます。これはよく言う「前肩」とは違います。「前肩」の問題は腕よりも首と脊椎にあります。

ところが、“肩を下げなければ”という欲求をもった場合、また“胸を上げなければ”という欲求も重なった場合、たいていの人は左右の肩甲骨を寄せて腕を後ろに引いてしまいます。そうすると“肩を下げたような”気がするからです。姿勢を良くしようという意識がこれを起こしていますが、実はこれは大いなる“錯覚”です。

腕を後ろに引き、肩甲骨を下げて胸を前に突き出す姿勢は、肋骨や胸椎を後ろに倒し、背中をひどく縮めてしまいます。胸椎の本来のカーブは失われ、背面の緊張が常態化します。当然、腰痛や背中や首の痛みを引き起こします。「肩を下げる」もしくは「力を抜く」という意識的もしくは無意識の心理が、実は脊椎全体を下方向に引っ張ってしまうのです。これは上に引き上げている状態とはほど遠く、むしろ骨格が崩れてしまっている状態です。

試しに「肩を挙げてみて」というと、多くのダンサーは嫌がります。姿勢が悪くなったように感じるからです。目的は“下に引っ張っている”のを手放して、“何もしていない”まっさらな骨格にすることで身体の可動性を取り戻したいのですが、習得してしまった習慣はなかなか手放せません。一瞬、腕を変えることができたとしても、その違和感に耐え切れずに次の瞬間には元に戻ってしまいます。

違和感があるのは、一部分だけを変えようとするからです。腕の位置が変わるためには、頭と脊椎全体が変わらなければいけません。

簡単にいえば、下方向への引っ張りをやめれば脊椎は本来の長さを取り戻します。頭から順番に上へ、首は長く、腕は本来の位置へ、胸椎と肋骨は自然な後弯カーブへ。プレッシャー続きだった腰や背中は解放され、休んでいた腹筋が働き始め、全身のバランスが取り戻せます。

これをどうやって自分の身体に起こすか。それが問題です。

私の場合、自分の背中が縮んでいる(落ちている)とはっきり自覚するまでに数ヶ月かかりました。腕の位置を変えてみましたが、あるのは大きな違和感ばかり。それでも数週間続けていくと、古い習慣に合わせて肋骨や胸椎にも強いクセがあることに気づきました。まずは自分のクセに気づくことから始まります。

忘れてはいけないのが、まず頭が脊椎の上で繊細に動くこと。脊椎全体を変えようとしているのに、頭や首を固めていては意味がありません。頭と首のロックが外れると、腕や肋骨、胸椎がどこに来れば身体のバランスが最も整うか、身体が教えてくれます。身体の声に耳を傾けることができるか、そこが問題ではあるのですが…。

初めは違和感でいっぱいでしたが、腕・肋骨・胸椎を変えると確かに背中が今まで感じたことがないほど広がっていくのを感じます。自分がイカリ肩で猫背になっている気がして仕方ないのですが、そのまま歩いてみると身体は確かに軽いのです。加えて腰が楽、呼吸が楽、声が出しやすい、おまけにお腹がへこむ、そして腸の働きがやたらよくなる。

問題はこの「違和感」です。

これは私の推測ですが、長年ある習慣を続けていると、身体はその姿勢でも健康を維持しようといろいろ調整してくれているのではないかと思うのです。だから、呼吸が浅くなっても、筋肉が緊張していても、違和感を感じないで生きてこられたのです。言い方を変えれば、感覚を麻痺させているとも言えるかもしれません。

その順応性があったがゆえに、人はクセのある姿勢に馴染みを感じ、本来の姿勢に違和感を感じてしまうまでになってしまいます。でも、そこに再び変化が訪れた場合、素直にも身体は再び調整を始めます。その調整が馴染むまでの期間は、違和感を感じてしまうのは仕方ないのかもしれません。

自分を痛める方向で身体を使っていると、一定の年齢に達したときに身体はしだいに耐えきれず赤信号を出し始めます。若いダンサーが赤信号が出る前に自分を変容させることができれば、間違いなくパフォーマンス力は上がるでしょう。でも実際、多くのダンサーは若さゆえに力でがんばり通して、ときに痛めてしまうものです。

私自身は、自分が確かに背中を縮めているということは、それをやっていない自分を体験して初めて理解することができました。「習慣の外に出る」という言葉があります。これは頭でわかっていても、実践するのは容易ではありません。それは猛烈な違和感と調和していくことであり、今までの価値観との決別でもあります。アレクサンダー・テクニークを学ぶということは、まさにこの作業なのです。

腕を後ろに引いた状態(左)から本来の位置に(右)。左は上体が背側に倒れているのに対し、右は腕や胸椎が腰椎の上でバランスしている。本人は前屈みで猫背になったような違和感を感じてしまう。

Fatima(大島ふみこ)

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。

関連記事