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“胸を張る”ことが及ぼす害~胸椎の本来のカーブを失っていませんか

ダンサーの多くは胸を引き上げています。いわゆる「胸を張る」という姿勢で、これをすると堂々とした雰囲気が出ます。ダンスレッスンを受けている人は、基礎レッスンでよく言われる「引き上げ」がこれを起こしていることが考えられますが、原因はそれだけではなく、最近の女性に多い姿勢の傾向でもあります。

ですが、この姿勢は、自分では「引き上げ」ているつもりでも実は「押し下げ」ていることが多いのです。それは背面を見ればわかります。自分の姿を鏡で見たときには満足しても、背面から見れば背中の筋肉は収縮し、肩甲骨は下がってしまっています。

この姿勢は反り腰や腰痛の原因になることも多く、パフォーマンス力にも影響します。肋骨と胸椎の動きを固めてしまい、脊椎全体の動きを制限してしまうのです。

そもそも人間の脊椎は美しいカーブを持っています。上のイラストを見てください。腰椎は前弯し、その上で胸椎は後弯し、その上で再び頸椎は前弯するという3つの美しい湾曲を描いているのです。

脊椎は弯曲の数が多いほど強靭になります。この弯曲が失われると、重い頭や上半身を支えるためにどこかの筋肉にかかる負担が大きくなって、痛みが生じたりします。

「胸を張る」姿勢を続けていると、胸椎の後弯カーブが失われます。これは肋骨の前側を持ち上げると同時に、頭と腕を後方に引くことで起こされている場合がほとんどです。特に5キロ以上の重さの頭が後方に引っ張られること、その影響はとても大きいです。

胸椎のカーブが失われると、腰椎の前弯カーブは大きくなっていきます。いわゆる反り腰です。この姿勢は、本来胸椎や頸椎が支えるべき腕や頭の重さを腰椎にすべて負担させてしまうため、当然、腰椎はガチガチに固まり、ついには痛みを生じてしまいます。

胸椎の後弯カーブは、脊椎のデザインで最も主要な“プライマリカーブ”であると言われます。四足歩行する脊椎動物は殆どが胸椎の後弯カーブと頸椎の前弯カーブをもっています。二足歩行する人間だけがもっているのが、腰椎の前弯カーブなのです。

一昔前は猫背が悪い姿勢の典型のように言われましたが、最近は腰椎の前弯カーブが強くなる傾向が目立つようです。これは文明生活によるもので、人間が身体を使わなくなったからと言われます。

腰椎のカーブが強くなった状態が慢性化すると、連鎖的に頭が前に落ちやすく、腕は後ろに落とす、もしくは前に巻き込んでいる人もいます。これは身体が無意識にバランスをとろうとしているためです。また、ストレートネックにもなりがちで、これは頸椎の前弯が失われ、頭の重さが首に大きな負担をかけてしまいます。

いずれにしろ、身体全体が重力に負けて、下方向に押し下げられている状態です。これによって、脊椎全体が短くなり、呼吸も浅くなり、動きが鈍くなり、悪化すれば首や腰に痛みを生じます。

ではどうやって胸椎のカーブを取り戻すか。安易に胸を丸めてもうまくはいきません。部分だけを直そうとするのではなく、脊椎全体が変わる必要があります。そのためには、脊椎のトップにある5キロの頭がわずかに動き、脊椎を圧迫しないコーディネーションを体験することから始めます。

わかりやすく言えば、操り人形を上からヒョイと上げたところを想像してみてください。グシャッとつぶれた操り人形を生き生きとさせるには、吊るした糸を持ち上げるのが最善です。その場合、身体の一番上にある頭が上にいく必要があります。

上へと身体が動き始め、全身の余分な緊張がなくなり、足裏がピッタリと地面に着地したとき、全身の骨は適度に離れていき、関節は広がり、筋肉は適切な張り(トーン)をつくります。この状態で頭や手脚が動き始めれば、何も考えなくても全身がそれに協調し、少ない力で動きを起こすことができます。そんなふうに踊るところを想像してみてください。

とはいえ、実際に上に書いたように身体を使っている人は非常に少なく、多くの人は知らず知らずグシャッとしているものなのです。今の姿勢というものは、長い時間をかけて変化していった結果ですから、たやすく変化するものではありません。アレクサンダー・テクニークのレッスンでは一瞬で変化することもありますが、それを自分で起こせるようになるには練習を必要とします。

失われた胸椎のカーブを取り戻すには、まず頭から。不思議に聞こえるかもしれませんが、それほどに頭というものは重いのです。逆にいえば頭が変われば、何も考えなくても他が整っていくのです。これは体験してみて初めてわかることなのです。

Fatima(大島ふみこ)

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